腰痛症
腰痛は非常にポピュラーな症状です。
ヒトが二本脚歩行を始めたことがその原因である、とまことしやかに
いわれていますが、私はその説にいささか疑問を持っています。
というのは二本脚歩行をはじめておそらく何万年も経つのに、いまだに身体が順応しないなんてことは考えにくいからです。
それともう一つ、最近では四本脚歩行のイヌやネコといったペットたちにも「椎間板ヘルニア」がみられるからです。
それはともかく腰痛の80%は原因を特定できないといわれています。
では原因が特定できる20%の腰痛にはどんなものがあるのでしょう。
次のような疾患があげられます。
- 根性腰痛(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など)
- 重篤な疾患(がんの脊椎転移、骨折、化膿性脊椎炎など)
- 内臓由来の腰痛
これら20%の腰痛はそれぞれの名前で呼ばれています。「腰椎椎間板ヘルニア」「脊柱管狭窄症」というふうに。
いわゆる「腰痛症」
それ以外の「これが原因です」と指摘できない80%の腰痛はひとまとめにして「腰痛症」という身もフタもない病名でよばれています。
「えー!すると8割の腰痛は治療のしようがないの?」という疑問を持たれるかも知れません。でもご安心ください、そんなことはありません。
「腰痛が起こる→原因が特定できる→原因を除去する→治癒する」
これは言ってみれば因果関係がはっきりしている場合です。
いわゆる「根治的な治療」がうまくいった場合ですね。
しかし実際はこんなふうにうまく行くことはきわめてマレなのです。
なにしろ腰痛の八割は原因が特定できないのですから。
しかしここで注意してほしいのは「原因が特定できない」ということは「原因が無い」ということとは違うのです。
「現段階では見つからないけれどきっとどこかに原因はある」ということなのです。降ってわいたように忽然と腰痛が現れたりはしません。
「でも結局のところ、原因が見つからなければ、治療のしようがないのでは?」と思われるかもしれません。
でも大丈夫です。
というのは「今は見えてないけれどどこかにある原因」を退治しさえすればよいわけですから。
原因を特定しピンポイントで攻撃する、というのが理想です。
しかしそれがムリならおそらくこの辺に原因があるはずだ、というあたりを広範囲に攻撃することで治療が成功することが多いのです。
医学が進歩したとはいえ「腰痛症」のように原因が特定できない疾患はたくさんあります。それらに対する治療は「ピンポイント攻撃」ではなく「広範囲爆撃」でなされる場合が多いのです。
「腰痛症」の治療
さて実際に原因の特定できない腰痛の治療はどのようになされているのでしょうか。保存的治療とよばれる「手術以外の方法」で行われます。
これらが保存的治療と呼ばれているものです。
この内、ペインクリニック科では「神経ブロック」とよばれる治療法が多用されます。
他の方法をいろいろ試してみたけれど改善しない、かといってあきらかな原因が見あたらないので手術もできない、という場合に「神経ブロック」特に「硬膜外ブロック」を行うことが多いのです。
「神経ブロック」というネーミングから、どんな大変なことをするのだろうと思われるかも知れませんが、全国のペインクリニック科の外来ではどこでも日常的に実施されている治療法です。
硬膜外ブロック
脊髄の外側にある硬膜外腔という部分に局所麻酔剤を注入することにより、局所の循環状態を改善し炎症と腫脹を取り、症状を改善していくという方法です。
ブロックに要する時間は数分間です。その後、約一時間ベッドで休んでいただきます。
治療のあとは、普段通りに仕事や入浴や食事をしていただけます。
もちろん健康保険が適応されます。
必要な治療回数は症状の強さによって異なります。
一度のブロックで症状が半減し、あとは薬物療法と物理療法でゆっくり治していく場合もあれば、週に2~3回、何週間もブロックが必要なほど症状の強い例もまれにあります。
さまざまな治療法をしても改善がみられない頑固な腰痛をお持ちの方はぜひご相談下さい。