顔面神経マヒ
顔面神経とは顔の筋肉をコントロールする神経のことです。大部分が運動神経線維であり顔の痛みや知覚とは関係がありません。よく「顔面神経痛」ということばが使われますが、これは誤りです。
ちなみに顔の痛みは「三叉神経痛」と呼びます。
「顔面神経マヒ」はほとんど痛みを伴わないのですが、ペインクリニックの対象疾患になっています。後ほど述べますが、それは星状神経節ブロックの適応があるからです。
顔面神経マヒの症状
さて顔の筋肉を動かす神経がマヒするとどうなるでしょうか。
- 眼を閉じられなくなる。
- 口を閉じにくくなり、水がこぼれたり空気が漏れる。
- マヒした側の顔に表情がとぼしくなる。
- 味覚や聴覚に変調をきたすこともある。
「顔面神経マヒ」は腫瘍、髄膜炎、脳卒中、頭部外傷などでも起こりますが、多くの場合そのような原因が見つからず「特発性」とよばれています。
一番ポピュラーな「特発性片側性末梢性顔面神経麻痺」のことをはじめて報告した人にちなんで「ベル麻痺」とよんでいます。
今回はこの「ベル麻痺」を中心にお話しいたします。
「ベル麻痺」の病因は、顔面神経の通り道である顔面神経管という管の中で神経が腫れて自分自身を圧迫することによるといわれています。
「ラムゼイハント症候群」と呼ばれる顔面神経マヒがあります。マヒだけでなく、耳介や外耳道にヘルペスを伴います。これはヘルペスウイルスによって顔面神経が障害されて起こるものです。
ところが「ラムゼイハント症候群」の中には皮疹の出ないものもあることが分かってきました。このようにヘルペスウイルスと顔面神経マヒの関連や病因についてはまだまだナゾの部分が残されています。
顔面神経マヒの治療
では「ベル麻痺」はどのように治療されているのでしょうか。
まず最初に知っていただきたいことは「ベル麻痺」の予後は非常に良いということです。
長期の観察では70%の症例が完全回復するとされています。無治療でもある程度は回復するという報告もあります。もちろん発見すればなるべく早期に治療を開始すべきであることは論を待ちません。
治療法は薬物治療とブロック治療とがあります。
顔面神経の炎症と腫脹、それによる圧迫が主因ですので「ステロイド」の内服や注射をします。
また頭頚部の血管を拡張し循環を良くする目的で「星状神経節ブロック」をします。
どちらも炎症と腫れの除去を目的になされます。
先ほどヘルペスウイルスとの関連に言及しましたがその観点から「抗ヘルペスウイルス薬」の内服をしていただくこともあります。
また患者さん自身に顔面筋のマッサージや運動をしていただきます。これは筋肉運動によって神経が賦活化されることを期待するのと、もう一つは麻痺している間に筋肉が萎縮してしまわないようにという目的もあります。
このような治療により、ほとんどの患者さんは三週間以内に「回復の兆候」が現れてきます。そして早ければ一ヶ月くらいで完全回復する場合もあります。
先ほどお話ししたように70%の患者さんは期間は別にして完全回復するとされています。
この病気のおもな合併症は味覚障害(無味覚症)、聴覚異常(聴覚過敏)、角膜感染症などがあります。
また回復期の合併症としては口を動かすとき同時に眼が閉じてしまうというような共同運動や、唾液腺の刺激によって涙が出てくる「ワニの涙症候群」などが見られるます。